スパム脳の恐怖

まえがき

 毎日あれこれ届くスパム。そのほとんどが、差出人の欲望丸出しの、ハタから見れば「恥ずかしいからやめてよ!」と第三者でも言いたくなるような露骨な文面が並んでいます。
 最近は漢字やひらがなカタカナで書かれたスパムも多くなっていますが、「ホントにこれ日本人が書いたの!?」と言うような文章が多い、というか、ほぼ全てが日本語の文法を無視して書かれているようです。
 これを「スパムしか宣伝手段のないヤカラは、民度がウンヌン……」と言って斬り捨てるのは簡単ですが、果たしてそうでしょうか?
 私は逆に「スパムを送ると脳に影響がある」と言う説を提唱したいと思います。すなわちこれ「スパム脳」です。

第1章:狭義のスパム脳

 狭義の「スパム脳」とは、スパムを送信した後の精神状態を言います。
 多量のスパムを送信した後、その成果(商品注文など)を期待して浮かれる、いわゆる「ハイ」の状態が現われます。一種の興奮状態で、これを狭義の「スパム脳」と呼びます。
 ところが受信者はそうバカではありませんから、なかなか引っ掛からない。シビレを切らした送信者は、追ってスパムを送信することになります。スパムを送ればまたしばし「スパム脳」の状態が続きます。
 これを繰り返すうちに、成果ウンヌンよりもスパムを送ること自体が快感と感じるようになり、更に快感を得るためのスパム送信を行なうようになります。手段と目的が入れ替わっています。
 多くのスパム送信者が、同じ日に同じアドレスに同じ内容のスパムを送るというのは、非常によくあることで、受信者側からすると、何をどう宣伝したいのか理解できない行動ですが、これは、送信者が「スパム脳」になっている為であり、既に送信者の精神状態は平常から逸れてしまっているのです。

第2章:広義のスパム脳

 広義の「スパム脳」とは、その(狭義の)「スパム脳」状態が続いた後に現われる脳の状態を言います。
 当初の目的(商品販売など)から外れて、スパム送信に熱中するようになると、「いかに売るか」ではなく「いかに送るか」という精神状態になっており、「宣伝効果」を軽視し始めます。
 つまり、宣伝文なんかどうでもよくなってしまうのです。スパムを送れさえすれば幸せなのですから。
 この「宣伝効果軽視」が、受信者にとって更に理解できないものとなり、「スパム脳」という事情が解らなければ、両者の意識は乖離し続けることになります。
 よく「このスパマーは何を考えているんだ?」と疑問に思うことがあるでしょうが、実は「スパムを送ること」を考えていたというワケです。

第3章:言語中枢への影響

 狭義の「スパム脳」状態が続くと、送信者の脳にさまざまな悪影響を与えます。
 まずは文章力の低下が顕著に見られるようになります。
 最初は、スパムを早く送りたいが為に推敲を省いたことに起因する漢字の誤用から始まるのですが、これは誰にでもありえることなので、この時点で脳が「スパム脳」に侵されていることに気づくことは稀です。
 また、「シュパム」に代表される、幼児語のような言い回しを好んで使うようになるのもこの時期です。
 その次に顕われる現象は、文法能力の低下です。
 まえがきに書いたような、まるで機械翻訳を使ったかのような日本語(のような文章)は、まさに「スパム脳」のサインで、気づいた第三者が止めないと更に進行することとなります。

第4章:感情過敏・被害妄想

 ところが、第三者が止めようとしてもこれがあまりうまくいったという話は聞きません。
 「スパム脳」の次段階として、送信の快感による興奮状態が長く続いたため、感情のコントロールがうまくできず、スパムを止めようとする者たちを「敵」と感じるようになるからです。
 多くのスパム送信者が頑迷で攻撃的に見えるのは、こういった理由からです。
 この状態になった送信者は、さまざまな攻撃を行ないます。例を挙げると、
・サイトにアクセスしてきた全員を(客も本人も含めて)「敵」と思い込み、アクセスログを公開する
・「敵」の個人情報をウェブ上に掲載する
・自分のことが書かれているサイトへDoS(サービス不能)攻撃を行なう
・掲示板を荒らす
 などの行動が考えられます。
 もちろん実害があれば、警察等への相談も行なう必要があるでしょう。

第5章:偽装工作

 通常、感情の高まりがずっと続くことは多くありません。
 落ち着いたところで自分の行動を冷静に振り返ることができれば、「スパム脳」状態から脱することも可能でしょう。
 ところが、その冷静さを取り戻すことができないのが「スパム脳」の怖いところです。
 落ち着ければ、当然ながら売り上げがあがらない理由は自らのいいかげんなスパム送信に起因することに気づくのでしょうが、残念ながらスパム送信者は、それは自分のせいではなくて「敵」のせいと思い込むという「逃避」行動に移行してしまいます。
 そして売り上げを増やそうと、新たなスパムを作成しはじめます。
 「スパム脳」に侵された状態で思いつくのが、「メールマガジン」のフリをしたり「メーリングリスト登録」のフリをしたり「知人からのメール」のフリをするという、「偽装」です。
 結局ここで、「スパム脳」状態を断ち切る手段を自ら閉ざしてしまうのです。
 なお、すでにこの時点では数の概念も曖昧になってきており、いきなり最初から「第38号」とか「第410号」などと書いてしまうのが、「スパム脳」の症状のひとつです(購読者数の偽装などでもそれが顕著に現われます)。

第6章:悪循環

 ところがせっかく無い知恵を絞って出した(ように本人は思っている)偽装スパムはうまくいきません。
 それはそうでしょう、これまでに送ってきたスパムと同じニオイを漂わせているワケですから、すぐにバレます。
 受信者だって、ちょっと検索を掛ければ「あの××のスパムだ」と判りますから。
 しかし送信者はあまり気にしません、なぜならまたスパムを送ることで快感を得ており、成果はどうでもよいという気持ちになっているからです。
 ですから、正体バレバレのスパムをまたしつこく送り続けるというワケなのです。

終章:スパム脳の予防

 この悪循環を繰り返し、送信者の脳は完全に「スパム脳」化してしまい、スパム送信なしでは生きられない精神状態になってしまいます。
 こうなると、強制的にコンピュータのない生活をさせる以外に更正できないと思われます。
 この恐ろしい「スパム脳」の鎖をほどき断ち切るのは、よほど知人・友人など身近な存在に恵まれないと不可能と言ってもよいでしょう。お手玉をしてみてもTVゲームをしてみても、スパム送信以上の多幸感を得ることはできないのですから。
 「スパム脳」を防ぐ最大の手段は、「スパムを出さない」これにつきるでしょう。
 ゆめゆめ、スパムを出そうなんて思わないことです。